フィールドノート
ソウル, 韓国
2022.11.25
ビヘイビアプロジェクト

警察官や警備員は傘を指す

大韓民国歴史博物館(대한민국역사박물관)に向かっていると、その手前にアメリカ大使館があり、そこで警備をする警察官たちが日傘を差していた。その日は9月上旬でまだ30度を越える暑さ。日傘を差す警察官について、調べたところ、2018年に熱中症対策として屋外警備の警察官に日傘が配布されたのが始まりだという。

警察官たちは、片手に日傘、もう片手は何も持っていない状態で、大使館から出てくる車と歩行者の交通整理をしながら、大通りに車を誘導する役目を持っているようだった。

これを見た時、日本でこの光景はなかなか受け入れられにくいんじゃないかと感じた。もし万が一の事態(交通事故や警備上のインシデント)が起きたらどうするんだ、日傘を持っていたが故に対応が遅れるとしたら職務怠慢なのではないか、といった議論が起きると考えたからだ。職務中は業務最優先で臨まなければいけない、という主張も筋は通っている。

こうした話は、百貨店で接客をしていない店員のふるまいにも通じるところがあると感じた。接客時以外にも姿勢を正し、常に気配りが求められる職場もあれば、接客以外の時間で従業員同士が会話したりスマートフォンで家族や友人とメッセージしていても、そこまで執拗に管理しない職場もある。

夏は日差しが強いんだから業務に大きな支障がなければ日傘を指してもいいんじゃない?という話と、百貨店で働いていてもお客さんが来ないならリラックスしていてもいいよね、という話は、近いように感じるのだ。

つまり、勤務時間とふるまいという観点から考えると、下記の2つの考え方があると整理することができる。

1)勤務時間は、会社が占有する時間だから、すべての時間を仕事に費やす必要があり、また常に社員としてふるまう必要がある。

2)勤務時間であっても、業務のためにその人から借りた時間だから、業務上必要がなければすべての時間に仕事に費やす必要はなく、その人の素のふるまいに戻ってもいい。

今回の警察官は公務員であり、給与の支払いに税金が使われているということもあって、こうした問題に特に過敏だと思う。分かりやすく言えば、税金を使っているのに手を抜いている、と批判されがちな立場だ。

日傘を差す警察官。人間的でいいなあと僕は感じるのだろうが、みなさんはどうだろうか。

僕としては、給料が払われているんだからベストを尽くすべきという話の筋は分かるけれど、まず警備をしてもらっているという感謝の気持ちや、その人が快適に働けているかという配慮の気持ちがあるべきだと思う。特に公務員は、市民の仕事を引き受けてくれている市民代表であり仲間なのだから、お疲れさんと声をかけてビール1杯奢るくらいの気持ちがあってもいいと思うのだが、どうだろう。私のみる限り、少なくとも日本では、公務員が一般会社員よりも辛辣な言葉で批判されたり、平然と見下されたような扱いを受けるのが当然とされることが多く、それを見る度に悲しい気持ちになる。

もしかしたら、自分の父が公務員だったということも、僕のこうした感じ方に少し影響を与えているかもしれない。もちろん仕事の内容について議論や批判があるのは当然のことだし、行政の仕事というのは法令に基づいて実施されるものなので、プロセスが非効率的だったりユーザビリティが悪いところも多々ある。ただ批判のされ方を見ていて、公務員に対してなら何をいってもいい、みたいな扱われ方をされているとやっぱり心が傷む。僕の大学時代の友人の何人かは公務員として働いているので、彼らの顔も思い浮かぶ。そうすると、公務員には何をやらせてもダメだ、コロナ対策が何もできていない、のような人格否定・全否定的な発言は僕にはできないし、ここはできているけどここは改善すべき、みたいな建設的な発言になるべきだと思っている。

公務員という職業が社会の中でどのように位置付けられているか、ということも関係しているかもしれない。このあたり、人によって、国によって、意見が分かれるところだと思うので、ぜひ他の方々の意見も聞いてみたいと思っている。

ビヘイビアプロジェクト

2019年から活動中

日中韓3ヶ国から2名ずつ、計6人のダンサーと共に、東京・北京・ソウルの3都市を訪れ、私たちが普段何気なく行っている「ふるまい」を観察するプロジェクト。 ふるまいは、私たちが社会で生きていく中で身につけてきた動作や思考であり、無意識の内に埋め込まれた「振り付け」のようだ。 近いようで遠い3か国のふるまいを比較し、自分の所属する社会の生きづらさを感じたとき、ダンサー1人ひとりがこうありたいと願うもう1つのふるまいが生まれていく...

プロジェクトの詳細
2022.12.14 ソウル, 韓国

韓国のお辞儀、世界のお辞儀

今回滞在していたホテルは、乙支路(ウルチロ / 을지로)というエリアにあって、印刷所や工具屋、金物加工場といった、小さな工場や問屋が集まる街である。東京でいえば合羽橋や蒲田のようなエリアのような雰囲気といったらいいだろうか。 工場のおじちゃんが通う庶民的な食堂や居酒屋も多いのだが、近年では再開発が進んで閉店や移転を余儀なくされることもあり、また雑居ビルを改装してレトロだけど現代的なデザインのカフェ

2022.12.14
ソウル, 韓国
2022.11.25 ソウル, 韓国

警察官や警備員は傘を指す

大韓民国歴史博物館(대한민국역사박물관)に向かっていると、その手前にアメリカ大使館があり、そこで警備をする警察官たちが日傘を差していた。その日は9月上旬でまだ30度を越える暑さ。日傘を差す警察官について、調べたところ、2018年に熱中症対策として屋外警備の警察官に日傘が配布されたのが始まりだという。 韓国、「暴炎」で警察官に傘配布 ソウルは最高気温更新韓国語で「暴炎(ポギョム)」と呼ばれる猛暑が続

2022.11.25
ソウル, 韓国
2022.10.4 ソウル, 韓国

公共空間は誰のもの?

土曜の夜、ホテルに帰ろうとバスに乗っていると屋台が並ぶ賑やかなストリートがあったので立ち寄った。鍾路3街駅(종로3가역)から清渓川(청계천)に向かう敦化門路(돈화문로)大通り沿いの片側に屋台が出ていた。 土曜の夜のソウル屋台街 清渓川側から見た屋台 一方通行3車線のうち1車線+駐車帯1車線、つまり車道の約半分を通行止にして屋台が出店され、路上にテーブルや椅子を並べている。ネットで調べてもこの屋台街

2022.10.4
ソウル, 韓国
2022.9.16 ソウル, 韓国

働く時間のふるまい

週末はソウル郊外のベッドタウンで人間観察をしたいと思って、ネットで調べていて見つけた記事(ソウルの郊外と通勤をみる)を参考に、ソウル北西部にある Ilsan New Town(일산신도시)を訪れた。ソウル中心部から1時間くらい、住宅地や商業施設が立ち並ぶエリアで、周囲には Ilsan Lake Park や Jeongbalsan Park といった広い公園が計画的に配置された緑豊かなエ

2022.9.16
ソウル, 韓国
2022.9.6 ソウル, 韓国

電車に乗るというプロトコル

週末は、ソウル郊外の住宅街とショッピングセンターを見に行こうと思って、ホテルの最寄り駅から地下鉄に乗った。スマホでメッセージを見ていたのだが、ふと車内が騒がしいことに気づく。まわりを見渡すと、2人や3人で話している人たちが数組いて、その声が少し大きいようだ。携帯電話で話している人も2人いる。地下鉄の騒音で気づかなかっただけで最初からみんな話していたんだろう。週末のソウルの地下鉄は、日本と比べると少

2022.9.6
ソウル, 韓国
2022.9.3 ソウル, 韓国

ソウルでのデモから公共空間のふるまいを考える

ランチの帰り道、紺のチョッキに赤いハチマキを帽子に巻いた人たちが路上で待ち合わせしているのを見かけた。赤いハチマキには「단결 투쟁」と書かれていた。Google翻訳のカメラで翻訳してもらったところ「団結闘争」と訳されたので、労働組合のデモかもしれないと思って、彼らの様子をしばらく様子を見ていた。 50代くらいのおじさんが多いようだったが、若い男性もそこそこいる。彼らの数は次第に増えてきて、どこか別

2022.9.3
ソウル, 韓国
2022.9.2 ソウル, 韓国

感情を押し殺して生きている

仁川空港に到着し、飛行機を降りてくる人たちを、見た目やちょっとした仕草から、韓国人なのか日本人なのか推測したという、前回の話の続き。 入国審査では韓国人と外国人は違う列に並ばなければならないので、そこで答え合わせができたのだが、正解率はざっと7割くらいだった。正確にいうと外国人列には日本人以外の人も並ぶので、もしかしたら彼らが日本人ではなく中国人やベトナム人だったという可能性もあるけど、日本と韓国

2022.9.2
ソウル, 韓国
2022.9.1 ソウル, 韓国

ソウルで10日間、ふるまいを観察しながら暮らすことにした

中澤大輔です。The Behaviour Project の活動の一環として、僕が単身でソウルに10日間滞在しながら、人のふるまいを観察し、テキストを書いたり、写真や映像を撮り溜めることにしました。韓国政府が現在はノービザのキャンペーンを行っているので、それに合わせて8月30日、関西空港から単身、仁川空港へ。 仁川空港に到着して飛行機から降りる時点では、韓国人と日本人

2022.9.1
ソウル, 韓国