綾部から都会に出た人たち
昭和30-40年、多くの若者が田舎から都会に出ていった。田舎が急激に変化・衰退していった高度経済成長期。当時の若者たちは何を感じながら田舎を出て都会を目指したのか。どんな社会の流れがあり、どのような時代の雰囲気があったのか。私の父も18歳の時に石巻から東京に出てきた、そんな当時の若者の1人だ。
その息子は東京で育った都会っ子だが、妻の仕事の関係で、京都府綾部市という別の田舎に引っ越すことになった。2021年、コロナ禍で在宅ワークが中心となっていた私は、どこに住んでも仕事がしやすかったのだが、綾部に引越しても、相変わらずパソコンばかりと向き合う生活だった。だが、部屋の窓からの景色は変わった。部屋からは広い空と山と田んぼと畑が見える。近年では田舎暮らしに憧れて移住する人たちも多い地域だが、高度経済成長期に始まった人口減少は今もどんどん進んでいる。なぜ人は田舎から出て行ったのだろう。その時代何が起きたのかをよく知らないまま、地方創生というキーワードで移住者を募っても、結局のところ何も変わらないのではないか。私は田舎暮らしに憧れたわけでなく、妻の同伴で綾部に来ただけだけれど、なぜ人が減っているのか。その歴史をもっと知りたいと思った。それは、自分が大学生の時に亡くなった父の人生とも関係することだから。
この作品では、綾部市およびその周辺から昭和30-40年代に都会に出て行き、現在も都会にご自宅を構えて生活の主な拠点にしている方々を対象にインタビューを行う。彼らの個人的な物語を収集し俯瞰することで、現代の私たちがあまり知らない「日本の田舎の近現代史」を個人の視点から描きたいと考えている。