市村清に会う
1968年に亡くなった株式会社リコーの創業者・市村清と、現代のリコーで働く役員・社員が「会う」という体験型の作品。リコー創業の地である大森に2020年にオープンした研究所「RICOH 3L」に設置されている。
タッチパネルで表示されるいくつかの質問に答えてから、小部屋に設置されたヘッドホンを装着すると、創業者・市村清が、現代のリコーの役員・社員の名前を呼びかけ、彼らに語りかけてくる。そして声に促されるままロビーに移動すると、現代の俳優によって演じられた市村清のスピーチが上演される。それは、市村が過去に行った講演や執筆した書籍の言葉を極力そのまま使用しながら、現代のリコー社員に向けて再構成されたスピーチである。市村の正義感、好奇心、闘志、人間らしさを表す「光と闇」をモチーフとした映像表現が、受け手の想像力を刺激する。
私たちは、あの世に旅たった市村清と実際に会うことはできないけれど、もし彼が現代に生きていたら何を話すだろうかと、想像することはできる。市村が今の自分だったらどんな仕事の仕方をするだろうか、そうやって死者を今の自分を重ね合わせ、死者の発想法を「インストール」することで、自分にはない発想に辿り着くことができる。本作品は、創業者のスピーチを再構成し上演するという演劇的手法を用いて、現代の企業で働く者たちに「働く意味」を問いかける、実験的作品となった。