デザインの仕事
2012 - 2013
宮城県石巻市

震災復興祈念公園の コミュニティデザイン

リサーチやデザインの仕事がだんだんと充実してきた2011年。本当は就職して5年でお金を貯めて大学院に行こうと思っていたのだけれど、仕事が予想外に面白くなってきた入社8年目。そんな時、東日本大震災が起きた。地震の2日後からアメリカ出張で、出発時には被災地の状況が全く分からないまま飛び立ったのだが、出張先で親戚4人が亡くなったことを知った。

しばらくして4人の遺体は発見され、帰国後に遺体確認のために石巻へ行った。また古くからの友人の住む陸前高田にボランティアとして足を運んだ。私は医者と違ってできることは限られているなと感じた。エスノグラフィとか、デザインとか、製品・サービスの開発とか、そういう自分のスキルは震災の前では役立たずなのか・・と落ち込んだこともあったが、人の話を聞く、物事を深く知る、発見したことを共有して議論する、といったスキルを生かせる何かの役割があるような気もしていた。そんなことをまわりの人たちに話していたら、知人の紹介で、都市計画の会社の人と出会った。石巻に震災復興祈念公園を作る計画があり、市長は住民参加型で公園の計画を立てたいと言っているのが、どう進めていいか分からないという。公園の予定地となっているエリアは、津波が押し寄せる前は住宅街や工場が立ち並ぶエリアだったという。

地域の団体は、地域の復興のために文化施設やスポーツ競技場などを作りたいと言っている。一方で津波で家族を失った被災者にとって、自分の家の跡地をグラウンドにしませんかと言われても、悲しみが募るばかりで感情的についていけない。震災が起きてからまだ1年半しか経っていないのだ。そして双方が石巻市に対して自分たちの立場を述べるばかりで、話が噛み合わない。そんな難しい状況が発生していた。そこで私は同僚と一緒に、石巻市からの依頼を元に市民団体や自治会など地域のステークホルダーを招いたワークショップを企画。公園自体の計画を作る前に、まず対話の場を作るところから仕事が始まった。

大人向けのワークショップと子ども向けのワークショップの2種類を企画し、それぞれ3回のワークショップを実施した。特に大人向けワークショップの運営は非常に大変で、1回目の最初の1時間は、現状に対して不満を持つ人たちが一斉に手を挙げて話し出し、予定が大幅に狂うという展開。だが、そうした参加者の姿勢は3回のワークショップを経て徐々に変化していった。一番嬉しかったのは、それまで石巻市に対してそれぞれの意見を言うだけだった市民団体と被災者の人たちが、互いに連絡先を交換し、その後は定期的に直接話し合うの場を持つようになったこと。地域の人たち同士なんだから、本当は当たり前のことかもしれないけれど、近所だからこそ腹を割って話せない、同じ組織だからこそ意思疎通ができない、家族だからこそ会話が少ない、そういうことって案外多い気がする。

公園の計画については、3回のワークショップの中では1つにまとまらなかったが、異なる意見を持つ人たちが直接話し合い、互いの立場に認識し合うことで人間関係が生まれたことが最大の収穫だったと思う。その後、市民同士が直接意見交換しながら企画を立ち上げ、それを市が支援するといった動きが始まり、本来の意味での民主主義が始まる瞬間となった。

共同制作者

主催: 石巻市
企画: 株式会社オオバ
ワークショップ企画運営: 中澤大輔、堤恵理
子ども向けワークショップ: NPO法人 CANVAS