デザインの仕事
2012-2013
タイ、マレーシア

オーラルケア、 製品からサービス開発へ

東南アジアにおける子ども向けオーラルケアの新事業開発を目指して始まったプロジェクト。エスノグラフィの手法を活用した製品開発ということで、このプロジェクトでも訪問家庭調査(ホームビジット)を中心としたリサーチが始まった。

タイとマレーシアの現地調査会社に協力してもらい、通訳を介してインタビューや観察調査を行う。これまでも日本での調査と並行して海外調査を行ったことはあったが、このプロジェクトは東南アジアを対象とした事業開発なので、日本での調査はまったく行わない。自分が子どもだった頃の体験や、日本の平均的な子どもたちはこうである、といったような常識を当てはめてしまうと誤解が生まれてしまうため、対象者の発言や行動を注意深く見守りながら、通訳ガイドの方に現地の生活について色々と解説してもらいながら調査をを進めた。通訳ガイドの方の洞察力、習慣の背後にある考え方についての解説などが的確で、とても助けられた。

マレーシアであった男の子と女の子は、無数の虫歯を患ってしまっていた。マレーシアの家庭では、子どもの世話をナニー(ベビーシッター)に担ってもらうことが多く、この家庭の場合は、母親が子どもの歯みがきをしたことがほとんどないようだった。この家庭のナニーはインドネシアから出稼ぎでやってきた10代の女性で、ナニーを始めてからまだ1年未満、子育ての知識や経験がほとんどなく、子どもたちの歯みがきがほぼできていないという状況。

私と一緒に自宅訪問調査に行った事業開発担当者は、長年にわたって歯ブラシの商品開発をしていた。親や子どもが使いやすい歯ブラシだけでなく、親に対してオーラルケアの情報を発信したり、メディアや保育園などを通じた啓蒙活動も行ってきたという。それだけに、この子どもたちの口内環境の悪さに、非常に大きなショックを受けたようだった。この子どもたちのために、私たちは何ができるだろうか? 単に製品を届けるだけでなく、子どものオーラルケアのためのサービスを提供しなければいけない。そうして事業の方向性は徐々に固まっていった。

リサーチを経て事業開発に取り掛かってからも、頭に焼きついて離れなかったこの子たち。歯ブラシを売るだけではダメだ、この子を助けるために自分たちは何ができるだろう? チームメンバーの苦悩は、その後の事業開発の原動力になった。