デザインの仕事
2022
白老町, 北海道

アイヌの国立文化施設 ウポポイの体験改善

ウポポイは、アイヌ文化を復興・創造・発展させるための国立施設北海道白老町にあったポロトコタン(アイヌ民族博物館を含む野外博物館)が大幅に拡張され、国立アイヌ民族博物館、国立民族共生公園、慰霊施設の3つを含む国立施設として、2020年7月に開業した。私はその年の10月、初めてウポポイに訪れた。アイヌ文化の復興と発展のために国家規模の施設ができたということは、学生時代に文化人類学を専攻し、世界の様々な先住民族の悲しい歴史を学んできた身として、大きな歴史的転換だと感じていた。特に過去の悲劇がどのように反省され、生かされていくかという点には高い関心があったし、期待と不安の両方があって、少しドキドキした気持ちでウポポイに足を運んだ。

私が一番印象に残ったのは、体験型のアクティビティを準備してきた職員の皆さんが、コロナ禍で非常に苦心しながら運営をされていたこと。アイヌ料理を担当するチームは、コロナ禍で準備していた料理体験が提供できなくなってしまったため、料理の紙芝居を作って上演していた。フェルト布が様々な食材の形にカットされていて、それを鍋の絵に貼っていくことで、アイヌ料理が調理される様子が「実演」される。何ヶ月もかけて準備してきたのに、コロナのせいで当初の予定がまったく実現できなくなり、それでも色々工夫してベストを尽くそうとしているのだな、という様子が感じられて、胸が熱くなった。もう一つ印象的だったのが、様々な会場で職員の方たちが「私たちはアイヌ文化を学び、次の世代へと継承していく」という話し方をしていたこと。職員は親がアイヌの人もいれば、そうでない人たちもいる。しかしどの立場であっても、自分たちはアイヌ文化を学んでいる道の途中にいて、来場者に実演したり紹介することで知識や技術を高めている段階である、というスタンスで話していた。そのことが、アイヌ文化に対する現実的で誠実な姿勢として、強く印象に残った。

それから1年くらい経ったある日、友人からウポポイの仕事をしないかと誘われた。ユーザ体験設計の専門家として、ウポポイの現状を分析し、改善のための提案をして欲しいという業務内容だった。私はその時、独立してから一番多忙な時期で既にいくつかの仕事を断っていたのだが、ウポポイとなれば話は別だった。別プロジェクトの合間を縫って、北海道白老町へと飛んだ。

まずサービスデザインの専門家として、施設内で提供されている内容をすべて体験し、その体験の流れを体系的に整理するところから始めた。メンバー2人で一部手分けして丸2日間かかった。私たちが訪れたのは2月。閑散期だったがそれでもたくさんの小規模なイベントが園内で行われていた。次に各エリアを担当する職員の方々へのヒアリングを行った。園内に様々なチームがあったため10名の方々にインタビューすることになり、これも丸2日かけて行った。この2つの情報源をメインに、他の調査会社が実施したアンケート調査や社内ワークショップから得られた示唆を含めて包括的に分析し、体験改善の方向性を提示した。

サービスデザインの仕事をしていていつも感じるのは、現場で働く人たちの「心」の存在である。自分たちが実現したいことを熱く語る人もいれば、悔しさのあまり涙を流す人もいる。仕事だと言っても人生の中のかなりを時間を費やしている訳で、仕事と自分の存在というものは切っても切り離せない。その仕事の対象が、アイヌ文化というアイデンティティに関わる問題であれば尚更である。国立施設という「期待」と「制約」、アイヌ文化の「復興」と「創造」、時に対立し合うこの2組のアプローチの狭間で揺れ動きながら、彼らなりの答えを追い求めて、仕事と向き合っている。展示や体験プログラムもぜひ鑑賞して欲しいけど、もしウポポイにいく機会があれば、彼らの存在や日々の活動そのものにも、ぜひ注目していただければと思う。