デザインの仕事
2021-2022

UXデザインを学ぶ 3日間ワークショップ

UXとは、ユーザエクスペリエンスの略であり、UXデザインを日本語でいえば、利用者体験の設計である。利用者というと、製品やサービスを利用する人だと捉えられることが多いが、UXという学問領域の源流をさかのぼると、UXにおけるユーザとは工場の作業員のことだったと言われている。機械化が進む工場で働く作業員のミスを減らすためには、人間が使いやすい機械を設計しなくてはならない。機械はミスをしないが人間はミスをする。だから機械を人間に合わせて設計することで工場の生産性が上がる。利用者に優しいデザインを目指したのでなく、工場を円滑に運用するためにはそうするしかなかったので、UXという考え方が生まれたのである。

UXデザインは現在では、工場の機械だけでなく、ウェブサイトやアプリの開発といったデジタルの「機械」の開発現場でも活躍している。また私たちが病院やレストランに行くと、予約機や精算機など人間の代わりに様々な機械が働いている。工場の作業員ではなくても、一般の人たちにも機械との共同作業を求められている。そのため、今ではありとあらゆる分野にUXデザインが重宝されている。

私が以前から取り組んできた「エスノグラフィ」という調査手法も、工場やオフィスで人が働く様子を観察し、なぜミスが起きるのかを分析して改善する、といった形で、このUXデザインの一手法として使われてきたし、「ジャーニーマップ」といった手法も、工場の作業工程の設計で使われてきた構造化の手法の一種である。

あるメーカーから、製品開発担当者に向けてUXデザインの講習をして欲しいという依頼があった。今まで自分が手掛けてきたプロジェクトは、教科書で書かれているような手法を当てはめるといった形ではなく、その場の状況に合わせて工夫したり、試行錯誤しながら感覚的にやってきたところが多い。そうしたノウハウを誰かに教えるということは、まず自分が一番そのことを理解しなくてはいけない。これは自分が今までやってきた仕事を振り返る良いチャンスだと考えて、自分なりのレクチャーと実習を検討することにした。コロナ禍の真っ最中だったので、3日間のワークショップはすべてオンラインで実施することになり、アシスタントの伊集院くんという若手デザイナーにサポートしてもらいながら、miro(オンラインホワイトボード)を使ってじっくりと教材作りを行った。

また、単にUXデザインのアプローチを学んでもらうだけでなく、学んだ人たちが自分の現場に戻って、次の日からすぐ実践的に使えるような工夫もした。どの企業でも、製品開発の流れというものは、社内であらかじめ決まっている。私はUXデザインを学んだので、今までとは違う方法で製品開発します、といっても話が通らない。そこで最初に、現状の自社の製品開発のプロセスを書き出してもらい、UXデザインを3日間学んでもらった後で、これからは今までとは違う、こういう流れで製品開発をしたい、という提案を作ってもらい、それを上級責任者に対してプレゼンしてもらう形にした。責任者の方も、すぐにすべては変えられないけれどやってみれば良いじゃないか、という発言があり、新しいアプローチでの製品開発が取り入れやすくなったのではないかと思う。

私はデザインを教える専門家ではなかったけれど、それだからこそ、自分の実際の経験を語りながら教えることができたし、受講者も熱心に色々と質問をしていただけたのかなと思う。また自分自身を振り返るとても良い機会になったし、受講者だけでなく私自身も自分を振り返るという課題が与えられ、皆さんの前でそれが試されることで、緊張感のあるワークショップになったのではないかと思っている。