fieldnotes
Seoul, Korea
1 Sep 2022
The Behaviour Project

ソウルで10日間、ふるまいを観察しながら暮らすことにした

中澤大輔です。The Behaviour Project の活動の一環として、僕が単身でソウルに10日間滞在しながら、人のふるまいを観察し、テキストを書いたり、写真や映像を撮り溜めることにしました。韓国政府が現在はノービザのキャンペーンを行っているので、それに合わせて8月30日、関西空港から単身、仁川空港へ。

仁川空港に到着して飛行機から降りる時点では、韓国人と日本人が混じっている状態。入国へと向かう人の群れを眺めているうちに、この人は韓国の人だろうか、日本の人だろうかと推測する。今このタイミングでは、両国の人の往来にまだ少々制限があるので、長期滞在の人も多いかもしれない。日本在住の韓国人や韓国在住の日本人だと、なかなか当てづらいなと思いながら、観察する。

まず目がいくのが、顔立ち、服装といった見た目だ。それから目線の動かし方や身体の使い方などのふるまいが目に入ってくる。同行者がいると、そのうち会話を始めるので、言語から答え合わせができるが、難しいのは1人の場合である。

やがて人の群れが入国審査に到着する。ここでは韓国人と外国人のレーンが違うので、二手に分かれる。すると韓国人だと思っていた女性が外国人レーンに並び、日本のパスポートをバッグから取り出す。僕が韓国人かなと推測していた女性のソロ旅行者が両方とも日本人だったようだ。

ロンドンに留学していたときやアフリカに旅行に行ったときなど、中国人や韓国人と間違えられることがよくあるが、日中韓の人同士ではちょっとした違いからお互いを見分けられるという印象があった。しかし実際に改めて試してみると、化粧や髪型、目線の動かし方といった些細なヒントからだけだと推測しにくいし、ふるまいも個人の性格に寄るところがあったり、顔かたちの個人差も大きくて、なかなか区別がつかない。

国籍や見た目で人を判断することについて

そもそもの話、国籍や見た目で人を判断するというのは、差別的な行為である。僕はそういうことをなるべく避けるようにしている。出身国が近いから気が合うというわけではないこともよく知っている。僕は家の近くに住んでいる日本人よりも、ロンドンの大学院で同級生だった台湾人やポーランド人との方が気が合うし、話していて楽しい。小学校時代の同級生と、ここ数年でプロジェクトを通じて知り合った60代女性。価値観が近いのは、性別も世代も違う60代の人の方だ。国籍や年齢・性別よりも、これまでどんな人生を送ってきたか、いま何に興味があるかということを理解しようとすることの方が、より人間的な関係性を築くことができる。つまり、どの集団に属しているかよりも、個々人の持つ特徴に目を向けるべきだと、僕は自分自身の経験から、そう信じている。ただそれでも、私たちのありようが「国」という枠組みからは多少なりとも影響を受けていると感じることがある。

なぜ美しいと感じるのか

なぜ自分はそう感じたのか。なぜこの選択をしたのか。少し立ち止まってその原因を振り返ってみると、自分のことは自分で判断しているように見えて、物事のほとんどは、その時代の流れによって決められていると感じることがある。なぜお寿司が好きなのか、なぜネクタイはするがスカートは履かないのか、なぜ自分は男性よりも女性に惹かれるのか、なぜ山を美しいと感じるのか、なぜアーティストとして作品を作りたいのか。違う時代、違う場所に生まれたら、きっと違うものを食べ、違う服を来て、違う人と違うことをしているだろう。自分自身で決めていること、変えられることなんて、ほとんどないのかもしれないと思うと絶望的な気分になることもある。

イギリスに2年間留学していたときの経験は貴重だった。イングランドは産業革命発祥の地であり、大英帝国は20世紀前半に最も繁栄し、現在の世界の仕組みに大きな影響を与えた。現在の覇権国家・アメリカの生みの親でもあり、もともとイングランド地方の一言語だった<イングリッシュ>が今では世界標準となり、新しい単語や言い回しが世界各地で生まれている。僕の現代人としての生活や価値観を考えると、日本人であるということだけでは到底説明できない文脈が僕の中にあり、僕自身にもイギリスの歴史の中に自分と深くつながるルーツがあるように感じた。

自分の中に国家の影響を探す

そうやって、自分の存在の起源を歴史的な視点で確かめようとすると、僕は日本人でもありイギリス人や中国人でもあるとも考えられるのだが、近代化において「国家」という単位が、今の私たちの暮らし方に強い変化を強いてきたという歴史も分かってきた。日本でいえば明治維新以降の政府主導の急速な国づくりによって、士農工商で大きく異なる生活をしていた人たちが同じ教育を受け、日本人らしさを確立していったというようなことだ。

そして現代を生きる自分自身の人格にも、そうした国家の仕組みから、少なかならず影響を受けてしまっている。個人的には、国籍・年齢・性別といった枠組みなんてクソ喰らえと思っているし、そんな窮屈な物差しで判断したくないし判断されたくない、という想いも強くある。国籍なんて関係ない、自分たちがこうありたいと願う未来があるなら、社会をそう変えていけばいいと思う。こうしたこの個人的な「想い」でさえ、僕がこれまで受けてきた学校教育や、現代社会の風潮の影響を受けていて、本当の意味での独立した(インディペンデントな)個人というのは存在しないと思うけど、それでも僕は、自分のこと、そして自分たちが属する社会のことは、なるべく自分たちの意思で決めていきたいと思っている。そのためにはまず、自分が何から影響を受けているのか、なるべく知っておきたいと思った。僕は「国家」という枠組みにどのくらい影響を受けているのだろうか。知らなければ、それを拒否することも逃れることも、自らの意思で作り変えることもできない。

The Behaviour Project について

そんな動機から、2020年に日中韓の3カ国のふるまいを比較するアートプロジェクト、The Behaviour Project を立ち上げた。日中韓3カ国のダンサー各2名ずつ計6名と僕で東京/ソウル/北京の3都市を訪問してふるまいを集め、パフォーマンス作品を作るというプロジェクトだ。僕はイギリスに留学していたから、イギリスと日本を比較するという選択肢もあったのだろうが、一見近そうに見える隣国同士を比較対象とした方が、自分たちのルーツを探るには都合が良いのではないかと考えた。また、この3カ国の近現代史は、第二次世界大戦という複雑な問題を今も抱えたままで、それが現代の私たちの生活や価値観にも大きな影響を与えているにも関わらず、十分な振り返りがされていないし、あまり触れてはならない話題のように扱われている。だから、日本人とは、中国人とは、韓国人とは何だろう、と自らに問いかけるときに、そうした隣人はとても力強いパートナーになるのでは、と考えた。

このプロジェクトは当初、2020年に活動する予定だったが、コロナ禍で国境を超える移動に制約が生じて延期を繰り返し、2022年も準備を進めていたが再延期することになった。本当は3カ国のアーティストが同じ都市に集まって活動したいのだが、それを待っていてはいつまでもプロジェクトが始まらないが、僕1人が移動するのであればもう少しフレキシブルに動けるということで、今回、ソウルに10日間ほど滞在して、こうやってテキストを書いたり写真や映像を撮りながら、少しずつプロジェクトを進めていこうと考えている。

テキストを書いているうちに、プロジェクト立ち上げの動機の話が長くなったので、仁川空港で見かけた人たちの観察の続きについては、次の投稿で続きを書きます。

The Behaviour Project

exploring since 2019

This work is a performance piece that gathers the "behaviour" of people living in the city of Tokyo, Shanghai, and Seoul, together with a total of six dancers from Japan, China, and Korea as a form of an art project. Behaviour is a natural act that anyone who lives in society performs everyday. It reflects the cultural and historical context of the region in which the person was born and raised, as well as the intended mind of how a person wants to be. In other words, it can be said that behaviour is a natural performance in everyday life...

project details
14 Dec 2022 Seoul, Korea

韓国のお辞儀、世界のお辞儀

今回滞在していたホテルは、乙支路(ウルチロ / 을지로)というエリアにあって、印刷所や工具屋、金物加工場といった、小さな工場や問屋が集まる街である。東京でいえば合羽橋や蒲田のようなエリアのような雰囲気といったらいいだろうか。 工場のおじちゃんが通う庶民的な食堂や居酒屋も多いのだが、近年では再開発が進んで閉店や移転を余儀なくされることもあり、また雑居ビルを改装してレトロだけど現代的なデザインのカフェ

14 Dec 2022
Seoul, Korea
25 Nov 2022 Seoul, Korea

警察官や警備員は傘を指す

大韓民国歴史博物館(대한민국역사박물관)に向かっていると、その手前にアメリカ大使館があり、そこで警備をする警察官たちが日傘を差していた。その日は9月上旬でまだ30度を越える暑さ。日傘を差す警察官について、調べたところ、2018年に熱中症対策として屋外警備の警察官に日傘が配布されたのが始まりだという。 韓国、「暴炎」で警察官に傘配布 ソウルは最高気温更新韓国語で「暴炎(ポギョム)」と呼ばれる猛暑が続

25 Nov 2022
Seoul, Korea
4 Oct 2022 Seoul, Korea

公共空間は誰のもの?

土曜の夜、ホテルに帰ろうとバスに乗っていると屋台が並ぶ賑やかなストリートがあったので立ち寄った。鍾路3街駅(종로3가역)から清渓川(청계천)に向かう敦化門路(돈화문로)大通り沿いの片側に屋台が出ていた。 土曜の夜のソウル屋台街 清渓川側から見た屋台 一方通行3車線のうち1車線+駐車帯1車線、つまり車道の約半分を通行止にして屋台が出店され、路上にテーブルや椅子を並べている。ネットで調べてもこの屋台街

4 Oct 2022
Seoul, Korea
16 Sep 2022 Seoul, Korea

働く時間のふるまい

週末はソウル郊外のベッドタウンで人間観察をしたいと思って、ネットで調べていて見つけた記事(ソウルの郊外と通勤をみる)を参考に、ソウル北西部にある Ilsan New Town(일산신도시)を訪れた。ソウル中心部から1時間くらい、住宅地や商業施設が立ち並ぶエリアで、周囲には Ilsan Lake Park や Jeongbalsan Park といった広い公園が計画的に配置された緑豊かなエ

16 Sep 2022
Seoul, Korea
6 Sep 2022 Seoul, Korea

電車に乗るというプロトコル

週末は、ソウル郊外の住宅街とショッピングセンターを見に行こうと思って、ホテルの最寄り駅から地下鉄に乗った。スマホでメッセージを見ていたのだが、ふと車内が騒がしいことに気づく。まわりを見渡すと、2人や3人で話している人たちが数組いて、その声が少し大きいようだ。携帯電話で話している人も2人いる。地下鉄の騒音で気づかなかっただけで最初からみんな話していたんだろう。週末のソウルの地下鉄は、日本と比べると少

6 Sep 2022
Seoul, Korea
3 Sep 2022 Seoul, Korea

ソウルでのデモから公共空間のふるまいを考える

ランチの帰り道、紺のチョッキに赤いハチマキを帽子に巻いた人たちが路上で待ち合わせしているのを見かけた。赤いハチマキには「단결 투쟁」と書かれていた。Google翻訳のカメラで翻訳してもらったところ「団結闘争」と訳されたので、労働組合のデモかもしれないと思って、彼らの様子をしばらく様子を見ていた。 50代くらいのおじさんが多いようだったが、若い男性もそこそこいる。彼らの数は次第に増えてきて、どこか別

3 Sep 2022
Seoul, Korea
2 Sep 2022 Seoul, Korea

感情を押し殺して生きている

仁川空港に到着し、飛行機を降りてくる人たちを、見た目やちょっとした仕草から、韓国人なのか日本人なのか推測したという、前回の話の続き。 入国審査では韓国人と外国人は違う列に並ばなければならないので、そこで答え合わせができたのだが、正解率はざっと7割くらいだった。正確にいうと外国人列には日本人以外の人も並ぶので、もしかしたら彼らが日本人ではなく中国人やベトナム人だったという可能性もあるけど、日本と韓国

2 Sep 2022
Seoul, Korea
1 Sep 2022 Seoul, Korea

ソウルで10日間、ふるまいを観察しながら暮らすことにした

中澤大輔です。The Behaviour Project の活動の一環として、僕が単身でソウルに10日間滞在しながら、人のふるまいを観察し、テキストを書いたり、写真や映像を撮り溜めることにしました。韓国政府が現在はノービザのキャンペーンを行っているので、それに合わせて8月30日、関西空港から単身、仁川空港へ。 仁川空港に到着して飛行機から降りる時点では、韓国人と日本人

1 Sep 2022
Seoul, Korea